矛盾論
むじゅんろん
Mao dun lun
『松村一人・竹内実訳『実践論・矛盾論』(岩波文庫) ▽毛沢東選集翻訳委員会訳『実践論・矛盾論』(大月書店・国民文庫)』
毛沢東『実践論』
時代背景
中国共産党(紅軍)VS 中国国民党の国共内戦
1927:上海クーデタ:国民党の蒋介石が共産党員を虐殺⇒国共分裂
1930~34:国民党による紅軍への「囲剿」攻勢
⇒当時の共産党はコミンテルンの影響下、ロシア革命モデルの都市進攻路線に固執し、農村
ゲリラ戦を軽視。物量で勝る国民党軍に対して苦戦を強いられた(いわゆる「極左冒主義」による失敗)
1934:第五次囲剿⇒紅軍が「長征」を開始(国民党の影響が及ばない地域への逃走)
1935:遵義会議:毛沢東がこれまでの敗戦の責任者とされた紅軍幹部(いわゆる「教条主義者」)を批判し、 実権を掌握、農村革命路線への転向
1936:延安に到着⇒新たな「革命根拠地」の建設を開始
1937:毛沢東、 『実践論』を執筆
目的
◦上記の経験を踏まえ、実地的な実践から学ぼうとせず理論のみに固執する「教条主義」を批判する
◦一方で漠然とした自己の経験のみに固執する「経験主義」を批判する
⇒そのために認識と実践の関係性を弁証法理論に基づいて説明した。
◦党内におけるイデオロギー的権威の確立(遵義会議で掌握した実権はまだ完全でなかった)
意義
『実践論』はソ連の哲学書からある箇所を剽窃した疑いがあるとして批判されるなどまだ未熟な点が存在し、彼の理論の成熟には『新民主主義論』を待たなければならない。しかし、現代中国の哲学界において支配的であった毛沢東思想の端緒を知る上での基本文献であり、中国における弁証法哲学事情を知る上での必読書である。また、論理学の観点から本著との関連性が指摘されているパースのプラグマティズムとも関連して説明したい。
内容
A 認識、理論が社会的実践に依存する関係
◦認識は実践に基づいて弁証法的に発展してきた
◦真理の基準は実践
◦理論は実践に基づいて生まれ、これを補完する
B 認識の発展過程
(a) 社会的実践、直接的経験による認識の深化
直接感じることによる感性的認識から、理性的認識への発展
→「実践から離れた認識というものは不可能である」
⇒このような認識の発展を中国近代の階級闘争史、実務(戦争)へ応用し、また唯理論と経験主義を批判
(b) 実践へと再帰する認識
理性的認識⇒革命的実践⇒世界の「改造」
認識は常に実践に返り、点検される
⇒認識の「客観的過程の法則性」との一致
⇒目的の実現へ
C 認識の弁証法的性質
ある客観的過程の発展段階が変移するに伴い、認識にも変化が必要
⇒右翼日和見主義:客観的情勢の変化と共に思想を変化させることができていない
⇒「左」翼空論主義:冒険主義、客観的情勢を無視して将来の目的を今無理やり実現しようとする
↓
主観と客観、理論と実践、知と行の具体的統一が必要
D 人民の思想改造
プロレタリア階級による世界改造闘争に含まれるべきもの
◦客観的世界の改造
◦自己の主観的世界(認識能力)の改造
◦主観的世界と客観的世界の関係の改造
E まとめ
実践と真理の相互性
感性的認識⇒理性的認識⇒革命的実践⇒主観的世界と客観的世界の改造
実践⇒認識⇒再実践⇒再認識…の循環性:弁証法的唯物論の「知行統一」観
参考
毛沢東『実践論・矛盾論』(松村一人、竹内実訳・岩波文庫)
矢吹晋『毛沢東と周恩来』(現代講談社新書)
上山春平『弁証法の系譜 マルクス主義とプラグマティズム』(こぶし書房)
土田秀明『毛沢東『実践論』の構想に関する一考察― 毛沢東の歴史観と弁証法理解との関係を中心に―』
http://archives.bukkyo-u.ac.jp/infolib/user_contents/repository_txt_pdfs/kiyou34/D034L011.pd
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